行政書士試験の商法科目

商法は5問20点です。 例年は第36問〜40問です。

合格するための基本的な指針で触れましたが、商法は基本的に捨て科目だと思います。
出題内容が厳しすぎます。
司法書士併願でもない限り、8点とれれば万々歳です。

具体的な出題内容

上のページで既に触れたことですが、基本的に平成17年の改正以降は、会社法は本当に難しくなっています。
例えば、株式会社の機関設計にしても、旧法は「株主総会・取締役会・監査役」のパターンが基本で、これに加えて監査役会(監査役3名以上)があっただけです。
平成15年に委員会設置会社というパターンが加わったのですが、そうだとしたって3パターンくらいしかなかった。
ところが現行法は、機関設計だけで十数種類あるわけです。
株主総会+取締役
を基本として、オプションでさまざまつけれたりつけられなかったり……

さらに株式も、昔は数種類しかなかったのが、今は十数種類に増え、さらに決議要件がごちゃごちゃごちゃごちゃしていて、そのあたりからの出題を押さえるだけで、ひぃぃぃぃといいたくなります。

基本的には、旧法の株式会社と旧法の有限会社をごっちゃ煮にしてキメラ化させて肥大化させたような、なんともな闇鍋仕立てになっております。

出題内容もあまりよくはありません。

3,取締役の辞任により員数が欠けた場合、当該取締役は、直ちに取締役としての地位を失うのではなく、新たな取締役が就任するまでの間は、引き続き取締役としての権利義務を有する。

(平成21年第40問一部抜粋)

正解は○なんですが、これはどうかなぁ……
まず前提として、「取締役の辞任により員数が欠けた場合」という文章だけで、
「ああ、これは取締役会を置いた会社なんだな」
「取締役会を置いた会社では取締役が3名以上でなければならないな」
「欠員とはそういう意味だな」
こういうことがすぐに分からないと解けません。
個人的な意見では、このレベルまで問うたらそれで十分だと思うのですが……

そこからさらに、
「取締役の辞任によって法定数または定款で定めた員数より下回る場合、権利義務取締役となる」
ということを知ってないと、解きようがない問題です。
確かにこれは会社法(346条1項)なんだけれども、これ知ってるのって、基本的に司法書士試験を目指してる人たちだけだと思うんですよね……
司法書士では常識なんですけど。
なぜなら商業登記でおもっきり出題されるポイントだから。
逆に司法試験の勉強してる人で権利義務取締役を知ってる人って、ほとんどいないんじゃないかな。
出題されないですから。
出題者は司法書士の過去問から持ってきたのだろうと思います。

このレベルの、酷な問題が多すぎるんですよね。
例えば平成19年に場屋営業が出題されているんですけれど、そんなマニアックなところ誰が勉強しているのか、と。
実はこれは平成13年の司法試験論文試験で出たところなんですね。
おそらくは、そこから持ってきた問題です。
司法試験レベルでさえ不意打ちといわれた問題を、行政書士試験に持ってきてどうするのか?
ちょっと出題意図が見えにくいですね。

結局、合格率を5〜6%前後にしたい、という行政書士試験運営側の意向があるのでしょう。
それ自体は妥当のような気はします。
では、どこでバランスを取りますか? と問われたときに、商法では点を取らせないぞ、ということなのでしょう。
司法書士併願組は楽々合格しますが、それは構わない、ということのようです。

勉強方法

勉強方法としては、商法・会社法を全面的に勉強するのはオススメできそうにありません。
民法とほぼ同じくらいの時間が掛かります。
いや、むしろ民法より長いかも……
司法書士組でもない限り、絶対無理という深度でしょう。

ですから、確実に点が取れそうなところだけ絞り込んで、そこだけピンポイントで勉強する、という姿勢で挑むしかなさそうです。

とりあえず商法から例年出題されているポイントとして、商法総則、商行為法が挙げられます。
民法の特則となる部分、例えば、代理方式の特則、法定利率の特則、消滅時効の特則など、こうした商法総則部分は(民法がきちんとできているなら)非常に簡単です。また、商行為も、問屋、仲立人、匿名組合契約など、ほとんど定義さえ覚えておけばいいだけなので、ここも簡単です。
会社法改正とはまったく関係がないので、過去問勉強がそのまま有効です。
過去問集は、ここだけは必要です。
ここで簡単な問題が出てくれれば、確実に4点を取っておきたいところです。

これに対し、会社法は勉強が難しいです。
会社法改正で、平成16年度以前の過去問が使えなくなりました。
予備校出版の過去問集には、改題の形で載っているのですが、改正前の問題意識で出題されているので、利用しづらいのです。
具体的にいうと、たとえば「株券には善意取得の制度が認められていない」(平成元年出題 ×)という問題は、今でも答えは×なのですが、現在ではおそらく出題されません。
旧法と異なり、現行法は株券は発行しないのが原則になったため、株券の善意取得の重要性が相対的に下がったからです。

旧法では重要だったけれども、現行法では重要性が低くなっている、という問題は、実際かなり多いです。
平成16年以前の過去問の、4分の1〜5分の1くらいに、そうした問題が出題されています。
そこは勉強してもしょうがない、というか「百害あって一利なし」の部類なので、じゃあどうやって勉強したらいいのさ、というのは相当難しい問題のように思います。

一つのアイディアとしてですが、司法書士向けの、受験予備校が出版している商法問題集(過去問ではありません。司法書士過去問も平成16年度以前のものは無効です)を解く、というのが、やり方としては良さそうです。
民法のときに言ったこと(「予備校の問題集は出来が悪い」)と逆のことを言っているわけですが、だって……過去問が使えないんだから仕方ないです。現状、これが次善というより最善です。

司法書士の問題集の場合、商業登記法とセットになっているものがほとんどで、行政書士試験では使わないものがついてきてしまう、という金銭的に無駄な部分な部分があるのですが、まあ仕方ないです。
過去問も商法総則・商行為法部分のためだけに購入するのも金銭的には実に無駄ですが、これだって仕方ないことなのです。
とりあえず株式会社の仕組みだけ何となく理解して、それから株主総会・取締役会の問題だけ、集中してやっておけば、なんとか4点になってくれそうです。
なんとも贅沢ですね。まるでどこかのグルメ漫画のようですね。

それ以外は手を回しても、問題の深度が深すぎると思います。
勉強時間としては、(株式会社の仕組みの理解は別として)10時間もあれば十分です。
グルメに頂いちゃってください。
なお、本気でやるなら、300時間は軽く行きます。