行政書士試験の憲法科目

憲法については、五肢択一が5問20点、多肢択一が1問8点の配点になっています。
例年は第3問〜7問が五肢択一、第41問が多肢択一です。
出題レベルは易しいと思います。

実務では全く使わない、と考えている受験生が多いのですが、日本国籍取得の代行など、外国人の申請代理を業務とする場合には、案外関係が深かったりします。

具体的な出題内容

では、出題内容を簡単に見ていきましょう。

次のア〜オの記述のうち、憲法上、天皇の国事行為として認められていないものはいくつあるか。
ア 内閣総理大臣の指名
イ 憲法改正、法律、制令及び条約の裁可
ウ 国務大臣の任免
エ 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権の決定
オ 衆議院の解散

(平成18年第4問)

典型的な条文問題です。例えばア、について解説すると、
天皇が行うのは内閣総理大臣の任命(6条)であって、指名をするのは国会(67条)
このレベルの知識が問われています。

初めて見ると「難しそう」と思われるかも知れませんが、実際は出題できるところは限られており、20年分ほどの過去問を三度も繰り返して解けば、この手の条文問題はほとんど網羅できます。
車の免許を取れる人なら誰でも出来る、そういうレベルです(個人的には免許のほうがよっぽどめんどくさかったような……)。

判例問題は一部抜粋で解説しましょう。
以下は正誤問題です。

1、市区町村長が漫然と弁護士会の照会に応じて、前科等を報告することは、それが重罪でない場合には、憲法13条に違反し、違法な公権力の行使に当たる。
2、警察官が正当な理由もないのに、個人の容貌等を撮影することは、憲法13条に違反するが、公共の福祉のために必要な場合には許される場合がある。

(平成13年第5問一部抜粋 1は× 2は○)

1、は前科照会事件、2、は京都府学連事件、いずれも最重要レベルの最高裁判例です。
いずれも出題されているのは判例の結論部分で、その部分を正確に覚えていれば簡単に解答できます(アは「重罪でない場合には」という部分が誤り。犯罪の種類・軽重を問わず、違法な公権力の行使に当たる、とするのが判例です)。

ちなみにアの前科照会事件に関しては、「いやいや弁護士から照会があったら答えるのが筋で、必要もないのに照会してきやがった弁護士が不法っつーだけで、市区町村長はなんも悪くなくね? つーか原告は訴える相手間違ってんじゃね?」という評釈があったりします。
正論だと思います。
常識だけで考えると間違っちゃう問題を出したがるのは、行政書士試験憲法科目の悪い癖だと思います。

代表的なのが、
「報道機関の事実の報道の自由は、憲法第21条の保障の下にある」(×)
「法廷での筆記行為の自由は、憲法21条の保障の下にある」(×)
といったあたりでしょうか。
いずれも判例の文言は、「「憲法21条の精神に照らし十分尊重に値する」であって、「保障の下にある」とまで明言していないので×になります。
正直、若干ウザいです。

もうちょっと言うと、「十分尊重に値する」という言い方と、「保障の下にある」という言い方とでは、形式的には後者のほうがより強く保護されている、ということになりそうが、実質的には差があるわけではないように思います。
実際、このことだけを理由に違憲審査基準が変わるか、といえばそうではありません。
そこに拘るのは、憲法センスが良いとは思えないです。
書くとキリがない話なので、ここらへんで止めておきますが……
ただねー、もうちょっとマトモな勉強をしなきゃ正解できない問題、そういうのを出した方がいいと思うんだけどな。

ともあれこれらの判例問題は、いずれもメジャー判例ばかりで、出し方もワンパターンなので、過去問を20年分ほどやっておけばそれで十分です。
上の例、博多駅テレビフィルム提出命令事件、レペタ事件は、行政書士試験お気に入りの出題パターンですなぁ。

勉強方法

いろいろなところで三種の神器、という言葉を繰り返していますが、
・ 基本書(教科書)
・ 条文(六法)
・ 過去問集
が行政書士試験の憲法科目でもやはり基本になります。

ただ、現在の行政書士試験の憲法科目では、基本書は不要だと思います。
法学部卒の方なら持っている本で足りるでしょうし、受験予備校に行かれる方であれば、予備校で配布される本で足りるでしょう。

一方で、判例付き六法全書は必須です。
深い判例知識は不要ですが、重要判例の基本タームをきっちり押さえておくことが肝要です。
また、条文知識は最重要です。

個人的な予想ですが、今後、憲法科目は徐々に難度が上がっていくのでは、と思います。
以前の問題は、上で述べたように、条文、判例だけを聞くものがほとんどでしたが、平成20年ぐらいから、なんだか国語問題っぽいんだけれど、本当は憲法の基本原則を知ってないと解きにくい問題、みたいなものが散見されるようにはなってきています。
現在はまだ簡単な国語問題レベルですが、徐々にレベルが上がるのではないか、そうなると、きちんとした基本書を精読する必要があるようなるのでは、と思っています。
それはむしろ好ましい変化のような気がしています。

とはいえ、現状の出題内容からすれば、割り切って勉強したほうが良い科目です。
条文問題は簡単ですし、判例問題は正確な評釈を知らないとストレスが溜まる、という問題が多いのが難ですが、いちいち評釈を探すより、「ま、よく分からんけど、なんかきちんとした理由がホントはあるんだろな」くらいで切り上げて、結論部分だけきっちり覚えるのが良いでしょう。

早稲田セミナーのSUCCCESS憲法・基礎法学過去問集(2,800円)を3回ほどやっておけば良いと思います。
五肢択一は5問全問正解できないといけません。
過去問は完全マスターくらいの勢いで。

憲法多肢択一に関しては、ちょっと難しいと思います。実力者にとっては簡単でしょうけれど。
判例から出題されるケースが多いようです。
だたし五肢択一と異なり、判例結論部分だけでなく、判例要旨を知っていないと解答できません。
憲法判例百選を読んでいればできそうです(しかし百選に載っていない、新しめの判例から出題されるケースもある。いやそもそもヤツは上下巻で二百選だ畜生め。いや今じゃ二百五十選くらい行ってなかったか?)が、労力的に難しそうです。
しかし、ヤマは張れそうなんですよね……
予備校模試や直前模試問題集を活用して、10問程度だけヤマ張りで行くのが最善っぽいです。

ただ、民法であまり点が期待できない、というのなら、憲法五肢択一の8点を取りに行かなければならないでしょう。
このあたりは微妙なところです。

勉強時間は40時間くらいで足りるかな? といったところです。
SUCCESSなら収録問題数が130問程度、1時間で10問みっちりやるとして、3回回せば39時間。
まあそんなくらいかな、と思います。